3月20日(日)は、澄み切った青空に恵まれ、会場からは安達太良山を見ることが出来ました。ギターの豊かな音色に魅了された「ふくしまの記憶と祈り」のレポートをお届けします。
17日(木)には、ギター渡辺隆先生とギタリスタスあだたらのみなさんは、福島中央テレビ「ゴジテレchu!!」にイベント紹介で出演しました。渡辺先生の堂々とした話しっぷりと学生チャンピョンの森湧平さんと渡邊華さんの息の合ったギター生演奏は、お茶の間に笑顔を届けてくれました。
◆「ふくしまの記憶と祈り」~大地と空の物語~

会場設営には、渡辺先生のギター教室のみなさんが朝からお手伝いをしてくれました。ステージ背景は、タイトル「大地と空」のイメージから、福島を記憶する土の色と藍色をあしらいました。「壁面との境界をあえて曖昧にする。全てが融合していく感じに」と当会ロゴマークを作成した菊地めぐみさん(美術教諭)からアドバイスを受けながら、舞台イメージを広げていきました。生花は、追悼と未来への希望を色で表現。
いよいよ開場です。
◆第一部 14:00開始

代表・田母神顯二郎からの開演挨拶
東日本大震災から5年を経て、震災で亡くなられた方へ哀悼の意を捧げ、復興の第一歩となるような未来を感じる会にしたいという思いを語る。
「(福島の)記憶や祈り」は、山々や川にも宿っていると思い、サブタイトルに「大地と空」と付けました。開催にあたりギターの歴史を調べていくと、スペインや南アメリカへ繋がり、その大地や空は、福島の地と空とも交錯するように思えてきました。ギターは民衆の音楽。偉大な作曲家たちは、普遍的な感動する曲を生み出していて、今日の演奏曲にもこうしたものが入っています」
カタロニア出身の名チェロ奏者、カザルスの言葉も紹介。
「音楽は全ての人が理解することが出来る話し言葉だ」
亡命者だったカザルスが、想いを託した音楽。
「ギターの音色を聴きながら、福島は世界のいろんなところとつながっていることを感じてもらえれば」と今回のコンサートに込めた思いを語った。

本日の出演者、渡辺隆先生とギタリスタスあだたらのみなさん(左から、森湧平さん、渡邊華さん、山岡祐子さん、小林政貴さん)
「この演奏会の依頼を受け最初は戸惑いもあった。しかし、「エディットふくしま」を読み僕らが考えていることと共通していると思った。今日、この舞台で演奏することが出来て感謝している。演奏曲は、前半は、個人のソロ。後半は、歌のコーナーを入れて、復興を願う音楽を入れ、最後に未来へ。これからの未来を考えていきたい。」と渡辺先生。
◆ギター演奏

「生かされていることに感謝して、精一杯演奏します」と小林政貴さん。
メキシコ出身のポンセが初期に作曲した「前奏曲」とスペイン全盛バロック音楽の主要な一人サンス作曲で、ウルグアイのカルレバーロが編曲した「スペインの古代舞曲集」から4曲を演奏。
繊細でありながら、異郷の地の情景を描きだしてくれるギターの音色が響きます。

「これからのふくしまを思いながら、心を込めて演奏させてもらいます」と山岡祐子さん。
1曲目は、18世紀のスペイン、ギターの巨匠ソル作曲「練習曲」、2曲目は、アルゼンチンのメルリン作曲で「想い出」から3曲(アルゼンチンのサンバやベネズエラのダンス音楽など)を豊かな情感で演奏します。思いを一手に引き受ける包容力もありました。

GLC学生ギターコンクール高校生の部で2年連続優勝の渡邊華さん。
「3月に高校卒業したばかりで、4月から東京の大学へ進学します。郡山での演奏の区切りにもなった今回の演奏会。今まで応援して下さった方々、来場の皆様に感謝して演奏したい」と話します。
演奏曲は、中南米の影響を受けたパラグアイのバリオス作曲「大聖堂」、続いて、ソルの晩年の傑作「幻想曲」、「重層的な音楽でパワフルでもあり、変わる音楽を楽しんで欲しい」抑揚のある重層的な音を奏でた華さんには、演奏技術と卓越した表現力が兼ね備えていることが伝わってくる演奏でした。

2015年GLC学生ギターコンクール大学生の部優勝した森湧平さん。今年医学部を卒業し、医師国家試験に合格。4月から県内の病院で働くことが決まっています。
「震災から5年が経ち、震災復興支援の活動に少しでも役立つことが出来てうれしく、精一杯演奏します。」
1曲目は、ポールマッカートニー作曲、今年没後20年になる武満徹が編曲した「イエスタディ」、2曲目はブラジルのギタリスト ヴィラ・ロボスが作曲した「前奏曲」を演奏。しっとり聴き入る「イエスタディ」、がらりと変わり、クラシックギターの音楽とブラジル音楽が融合した「前奏曲」の組み合わせが、森さんが持つ純粋な繊細さと情熱の魂が交じり合って、素晴らしい演奏となりました。
◆第二部

鈴木より「ふくしまの記憶と祈り」と題して、震災後、山や川といったふくしまの自然を巡ってきて豊かな大地と共に生きている人々について語りました。「震災後、言葉が入ってこなかった。その時、対話できたのは福島の山々、樹木、自然のものたちだった。言葉でなくとも交わすことが出来る、そんな力が福島の地にも音楽にもあるのだと思う」「福島の人々も、前へ一歩を踏み出している方も多い。多くの方々の思いをこれからも紡いでいきたい」
ふくしまの映像は、川内村と被災地、ふくしまの移ろい、ミノリとイノリに分けた映像をご覧いただきました。
○ 歌のコーナー

「ふるさと」と「花は咲く」をギタリスタスあだたらのみなさんが演奏します。


指揮は、渡辺隆先生。震災当時と思い出す方、未だ帰れない故郷を思い出す方、様々な思いは声に宿り、ギターの音色と織り交ぜられて、会場を包んでいきます。
○第二部の演奏は、祈りを込めた曲を演奏くださいました。

渡邊華さんは「アメージング・グレース」をしっとりと弾きあげます。それぞれに去来するものを感じながら、華さんの表現力の豊かさに感じ入ります。

小林政貴さんはレーモン作曲の「KIZUNA~絆~」を演奏。レーモンが東日本大震災へのレクイエムとして亡くなられた友人のギタリスト稲垣稔氏と私たち日本人へ友情の証として送られた曲です。誠実な真摯な音色に胸が打たれます。

渡辺隆先生と山岡祐子さんの演奏で、ドビュッシー作曲の「月の光」です。
渡辺先生から「印象派で、輪郭がはっきりしないのですが、色彩感が素晴らしい。色彩感をギターで弾くとどうなるか、聴いて下さい。」と話がありました。色のあわい、時間の間を紡ぐような繊細であり、深さもある演奏で素晴らしい音色でした。

渡辺隆先生が演奏されるのは貴重な機会だそうです。渡辺先生が演奏するのを楽しみに、駆けつけた方もいます。

全員で未来への演奏です。
渡辺先生から、「これまでを考えることも大切ですが、これからのこと、未来へ歩み出せるようにと思い、演奏します。」
来場者で、ギターの音色に、癒され、涙が溢れて来たという方が多くいらっしゃいました。重層的であり、未来へ弾む感じもあり、会場が一体になったギター演奏の時間でした。
最後に田母神から「繊細で豊かで細やかで喜びに満ちた時間、あっという間に過ぎた時間」。いろいろな意味で、復興は時間がかかるかもしれませんが、もう一方、新しい歩みが大きくなっていくと信じている。」とこれからのふくしまへの祈りのメッセージが添えられました。

イシス編集学校有志による福島への言葉の贈り物「献歌」もプログラムと一緒にふくしまの人々へ。
◆ 当日の感想 ◆
・素晴らしい会でした。
このような機会を続けていることは本当に素晴らしいと思います。
これからもどうぞ続けて下さい。 (福島市 女性)
・とてもあたたかい内容で良かったです。
いつかお手伝いが出来たらと思います。(郡山市久留米 女性)
・ギターの音楽の世界に新しい知識の一部を得られました。(郡山市片平 男性)
・ギターがこんなに豊かなことに改めて驚きました。
なぜか涙が出て来ます。(福島市 女性)
・今、福島の阿武隈山系の山は放射能が高くて登れない山がたくさんあります。鈴木さんが「山の土の1センチは100年の歴史」500年の歴史を失ってしまった郷土、そして私の家の庭の土も含めて、改めてこの5年の震災に原発への憎しみが増してきます。
でも、ギターの語り掛けるような音色にささくれた心が癒されました。そして、若者たちの澄んだギターの音色に、希望と力強さを感じ、涙があふれました。素敵な会でした。
ありがとうございました。写真素敵でしたよ!(郡山市 女性)
・とてもいやされました。
音楽はいいですね。ありがとうございました。(石川町 男性)

出演者と運営をお手伝い下さったスタッフのみなさん。
演奏後の懇親会で、渡辺先生は「震災後の1,2年は誰もが気張って何かしなければという思いが焦り、3,4年目になると疲れが出て空虚の気持ちになり、5年になると振り返ることもしなくなる。僕たち福島の人は、1,2年は県外からボランティアの人も多く入っていたので、普段通りに暮らそうと思い、いつか自分たちの力が必要とされる時のために力を蓄えておこうと思った。5年目の今回がその時だった」と話してくれました。
来場した誰もが、ギターの音色に癒され、音楽の対話力に感じ入り、何より、演奏される渡辺隆先生とギタリスタスあだたらのみなさんの人柄に触れることが出来た時間でした。渡辺先生は、「ギターは、演奏技術より、その人の生き様を感じ、感動する音楽です」と話されたましたが、まさにこれを体感した時間でした。
出演された渡辺隆先生とギタリスタスあだたらのみなさん、ご参加いただいた皆様、会の運営をお手伝いいただいた皆様、ご支援いただいたみなさまに感謝申し上げます。
(当レポートの写真は、山岡哲さんからご提供いただきました。有難うございました)
レポート 鈴木康代